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5.27.2008

もう一段の間接参照

David Wheelerの格言にAny problem in computer science can be solved with another layer of indirection.というものがある。コンピュータ科学者だけでなくプログラマの本能もこれを肯定するのである。そうだ、ここにもう一段の間接参照を設けよう、と。実アドレスの代わりに仮想アドレスを、レジスタフィールドのリネーミングを、値渡しを参照渡しに、命令シーケンスをルーチンへ、等々。

一般的に中央銀行は物価の安定を目的としている。FRBのように雇用の最大化を加えるところもあるが、最重要ミッションは発行する通貨の価値を安定させることだろう。さて、通貨価値の安定を実現するにはどういった戦略が取られるのか。民間銀行の貸付金利が足並みを揃えるというルールならば、公定歩合が政策金利となる。もし民間の金利が自由化されていれば、一次市場に流通する無担保コール翌日物金利、つまり短期金利が政策金利として利用される。いずれにしろ短期的な市場金利を調整を通して、中長期的な債券・物価の上昇率をゆるやかに、つまり通貨価値を安定させる。しかし、と一介のプログラマは思うのだ。ここにもう一段の間接参照を設けては駄目なのか、と。

インフレターゲットは言わばAnother Level of Indirectionであろう。政策金利とは別に、物価上昇率の目標を設定する事で、実質の金利を、名目金利から物価上昇率を引いたものとすることが出来る。その用法は例えば、不動産バブルが弾けて個人貯蓄が動かなくなった経済において、インフレターゲットを高く設定する事で実質金利を下げ、投資・消費行動を促進する、と言った具合である。この場合の投資行動については、むしろ税制改革の方が直接的な影響力を持つのでは、なんて思うものの、インフレターゲットに対する各方面の反論はこれを覆すとは思えない。

それに何より、インフレターゲットは何だかプログラマが使うアイデアに似ている。これを批難する声は、まるでガロア理論を真っ向から否定する人間のようだ。

方程式の解をとりあえず α β γ としよう
この数を加減乗除して出来る有理数に対して、
有限回の適当な操作が目的の方程式になるだろうか、
と考えることは出来るだろうか

すると無教養な者はこう叫ぶ、馬鹿な、その解が分からないから困っているというのにっ!と。

ところで不動産神話が崩壊する以前の日本において、どのようにして堅実なサラリーマンを不動産購入に向かわせたのか、という疑問はまた別の話である。

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